次世代農業に欠かせない!ドローンを使った農薬散布の現状とこれから

産業用ドローンを活用したビジネスの有望株として常に挙げられるのが「農業」です。ここ数年、農業にも革命が起きつつあり、ICTのテクノロジーを活用した農機具の登場や、ビッグデータを活用した精密農業が次世代の農業のあり方として、次々と紹介されているのはご存知の方も多いことでしょう。そんな状況の中、ドローンも農業の新しいやり方をサポートするひとつのソリューションとして、大きな注目を集めています。今回はそんな農業分野の中から、ドローンを使った農薬散布について紹介していきたいと思います。

①ドローンを使った農薬散布とは

水稲作での農薬散布は、雑草の管理と病害虫の防除の2つが挙げられます。従来は、人間の手での散布やスプリンクラー、あるいは乗用田植機を使った散布、友人ヘリによる散布、そして大型ラジコンヘリを使った散布が主な方法でした。特にヤマハが初めての農薬散布用無人ヘリ「R50」を開発してからは、無人ヘリを活用する農家も増え、日本全国に無人ヘリによる農薬散布用のネットワークが敷かれ、散布時期になると多くのオペレーターが、日本中の圃場をめぐり、散布をおこなっています。

そんな中、ここ数年で登場したのがドローンによる農薬散布です。ドローンの汎用性と飛行時の安定感、そして自動航行といったメリットを活かすような機体が国内外で次々と開発され、この1〜2年で一気にそのラインナップも増えてきました。

ドローンを使った農薬散布の特徴としてまず挙げられるのは「散布作業の効率化」でしょう。優れた安定性をもつドローンを使うことで、効率的かつ安全に農薬散布をおこなうことができます。ドローンは機体サイズも一人で運べるほどのサイズが多く、軽トラックの荷台にも簡単に積み込みができますので、準備や後片付けも含め、圧倒的に時間の短縮が可能ですし、場合によってはワンマンでのオペレーションも十分に可能です。

また、非常に安定した飛びは、農薬を範囲外に散布するリスクが少なく、高度を一定に保つことで散布される量も一定となり、品質の均一化を図ることもできます。一般に、ドローンは無人ヘリでの散布よりも低高度で散布が可能とされており、よりピンポイントでの散布ができるのも特徴のひとつです。さらに、機体はGPSで制御できますので、ルートを外れることなく、然るべき場所にしっかりと散布することができるでしょう。

最近の農薬散布用ドローンは、10Lの農薬を搭載できるものが主流となっており、1haの広さの圃場を液剤ならば10分ほどで散布してしまうことができるものも多くあります。今後、日本の農業は大区画化が進んでいくとされていますが、それにしたがって効率化が求められることは必至であり、ドローンを活用した農薬散布は、今後の農業にとっても必要となるソリューションといえるでしょう。

それでは、ここからは、そんなソリューションの代表作を紹介していきたいと思います。

②農薬散布用ドローン紹介:DJI「AGRAS MG-1」

世界のドローンの7割のシェアを占めるといわれるDJI。そんなDJIが農薬散布用の機体として投入しているのが「AGRAS MG-1」です。この機体の特徴は、「A3」フライトコントローラーによる抜群に安定した飛行でしょう。農業用に調整されたアルゴリズムによる、液体の揺れ動きが起きた際でも安定した飛びは、オペレーターに大きな安心感を与えてくれます。また、気圧計とコンパスが2つずつ装備されるなど、冗長性の確保も見逃せないポイント。信頼感のある機体設計で、農薬散布をスマートにおこなうことができます。

また、この「AGRAS MG-1」には、高い精度を誇るマイクロ波レーダーが3つも搭載されています。これにより、機体は散布する地形を認識し、常に地形に合わせた正確な高度を把握することで、作物から一定の高度を保ちながら飛行することが可能です。これにより、作物の品質を一定に保ち、より効率的な収穫をおこなうことができるでしょう。

さらに、噴霧システムにもDJI独自のものが採用されています。機体には前後1組ずつのノズルを制御する互換性のあるタンクが2つ搭載されており、前方、後方、全面噴霧の3つの噴霧モードを活用することができます。これらは圧力センサーと流量センサーにより、噴霧のスピードや量をリアルタイムで制御することができます。これらの機能は、日本向けには順次導入されていく予定となっています。

機体スペックとしては、ペイロードなしで最大で24分のホバリングが可能。最大で10kgの液体を搭載でき、機体は折りたたみなので持ち運びも容易なものとなっています。これからの農薬散布シーンで活躍が機体される「AGRAS MG-1」から目が離せません。

③農薬散布用ドローン紹介:ヤマハ「YMR-08」

30年以上、無人ヘリによる農薬散布をサポートしてきたヤマハが満を持して投入する農薬散布用ドローンが、この「YMR-08」です。2018年10月末に発表されたばかりのこの機体は、2019年3月末から発売開始とのことで、現在分かっているのはそのスペックだけですが、早速紹介していきたいと思います。

ヤマハがこれまで農薬散布で培ってきたノウハウを投入したとされる「YMR-08」には、農薬を作物の根元まで確実に届けるために、優れたダウンウォッシュ性能を実現しています。二重反転ローターを搭載し、力強いダウンウォッシュによる散布機能は、まさに農業機を開発してきたメーカーならではの発想でしょう。

また、「ノーマルモード」「自動クルーズコントロールモード」「自動ターンアシストモード」と、フライトモードを3種類用意し、オペレーターの負担を軽減。折りたたみが可能なコンパクトなボディは、汎用性の高さをうかがわせるものです。

また、カートリッジ式のバッテリーやモーター、ハイブリッドローターなど、メイドインジャパンの信頼性も見逃せないところ。タンクは10Lの容量となっており、1回のフライトで1ヘクタールの連続散布が可能ということで、従来の無人ヘリに匹敵する稼働スペックを誇る機体となっています。

日本を代表する農薬散布機メーカーが放つ新しいソリューションである「YMR-08」の今後の評価が非常に気になるところです。なお、価格は2,754,000円で、計画では年間500台を販売すると発表されています。

④農薬散布用ドローン紹介:エンルート「AC1500」

さまざまな用途のドローンを開発しているエンルート。もちろん、そのラインナップに農薬散布用の機体も入っています。この「AC1500」は、9Lの液剤散布と、オプションで粒剤散布も可能な農薬散布機となっており、高い散布能力で多くの圃場で活躍している機体です。

機体はアームを折りたたんで運ぶことができるタイプのもので、バッテリーを含んでも約16kgと軽量な仕上がり。最大飛行時間は15〜20分となっており、9Lの積載量で農薬散布の効率性を一気に高めることが可能です。

この機体用に開発されたモーターとプロペラは、パワフルさとタフさを兼ね備えたもの。大容量のクーリングファンによって夏場の高温下による運用でも、熱ダレしない仕様となっています。

また、液剤散布のノズルは新設計のもので、理想的な広がりで散布できるようになっており、ノズル自体の脱着や洗浄も非常に簡単で、優れたメンテナンス性を確保しています。農薬散布機として汎用性の高さは折り紙付きの「AC1500」。この機体で農業の生産性を一気に高めることが可能ではないでしょうか。

⑤まとめ

今後、農業の担い手が少なくなり、それに伴って大区画化が進むとされる日本の農業。より効率良く、しかも均一の質の作物を収穫するためには、ドローンを使った農薬散布は必須であり、ドローンに対する期待は非常に大きいものがあります。今後は、さらに高度な飛行モードや散布モードを搭載した機体や、今まで以上にペイロードが大きく、より多くの農薬を積むことができるような機体が開発されていくことでしょう。次世代農薬を支えるドローンのこれからの活躍が楽しみです。